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広島地方裁判所 昭和47年(行ウ)28号 審判 1975年9月03日

原告 掛谷常雄<ほか三名>

右原告ら訴訟代理人弁護士 堀内信夫

被告 福山市長 立石定夫

右訴訟代理人弁護士 開原真弓

被告指定代理人 繩稚康雄

<ほか二名>

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

一  被告福山市長は、坪生土地区画整理事業につき昭和五〇年度から同五二年度までの間の休耕地補償金の支払をしてはならない。

二  被告福山市長は株式会社広島銀行に対し、右事業費のために借入れた金一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円に対する昭和四九年から昭和五〇年までの利息の支払をしてはならない。

三  被告福山市長が、右区画整理事業地域内を通過している広島県道三、三五七平方メートルの拡幅整備した費用を右県道の管理者である広島県から徴収しないことは違法であることを確認する。

四  訴訟費用は、被告福山市長の負担とする。

(本案前の申立)

請求の趣旨第一、二項につき、訴の却下を求める。

(請求の趣旨に対する答弁)

主文と同旨

第二当事者の主張

(被告の本案前の抗弁)

住民訴訟は、地方公共団体の財政上の腐敗行為の防止、是正を目的とする制度であるから、その対象となる行為は財務的処理を直接の目的とするものに限られるべきところ、本件区画整理事業は、街路、水路、公園等の公共施設を整備して健全な土地利用増進を図ることを目的とするものであって、財務的処理を直接の目的とした行為ではないから、右事業の遅延の結果、当初事業年度以降も福山市が右事業のために借入金利息及び休耕地補償金の債務を負担しても住民訴訟の対象とはなしえず、原告らの訴は不適法である。

(本案前の抗弁に対する原告らの反論)

原告らは、右工事の進行そのものを訴訟の対象としているものではなく、福山市長の違法な坪生土地区画整理工事の中断によって右事業が遅延した結果、本来ならば不必要な休耕地補償金を支出し、事業費の利子負担をすることは、福山市長の腐敗した財政行為そのものであるとしてその是正を図らんとするものであって、右は住民訴訟の対象となる。

(原告らの請求原因)

一  訴外福山市は、福山市坪生町区域を近代的な宅地に造成するため、昭和四四年に備後園都市計画事業坪生土地区画整理事業施行規程(福山市条例昭和四四年第五八号。以下、条例五八号という。)を制定し、昭和四四年一二月一日に坪生土地区画整理(以下、本件区画整理という。)の事業認可を広島県知事から受け、右工事に着手した。

二  福山市は、その後本件土地区画整理工事を順調に進展させていたところ、工事がほゞ完了間近になった昭和四六年一月一九日に坪生土地区画整理審議会(以下、単に審議会という。)に対し、本件区画整理区域内を仮称山陽高速自動車道路(以下、山陽自動車道という。)が通過する予定であるから、その敷地に充てるための保留地の設定と事業計画の変更を審議するように提案した。この提案に対し、審議会が反対の態度を明らかにしたところ、福山市は、審議会が右提案を承諾するまで本件区画整理工事を進行させない旨言明して右工事を中断し仮換地指定等の作業に取りかからず、以後今日に至るまで事業はほとんど進展していない。

三  本件区画整理事業施行主体としての福山市は、健全な市街地を造成するという土地区画整理法の定める目的に従い、定められた事業計画に基づき、速やかに、本件区画整理を完了すべきである。そして山陽自動車道は、その公害によって事業区域内の環境を破壊する機能を有するから、執行機関たる福山市長としては、元来山陽自動車道の本件区画整理区域内通過を阻止すべき立場にもある。

しかるに福山市長は、山陽自動車道敷地に本件区画整理にかかる保留地を充てれば、地価は福山市が定めたところによることになり、また個々の地権者と交渉する必要もなくなるところから、法により与えられた施行権限を濫用して、右のとおり、山陽自動車道の敷地に充てるための保留地の設定と事業計画の変更の提案を審議会が受入れないかぎり工事を進行させないとして、不法にも本件区画整理事業を中断させた。この中断がなかったならば、少くとも、本件区画整理残工事、仮換地指定は昭和四六年度中には完了していたものである。

そして福山市長は、右事業を不法に中断させる一方、右区画整理事業費として株式会社広島銀行から借入れた一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円に対する利息及び休耕地補償金を右中断以後も支払い、また昭和四九年度分以降も右に要する金額を予算に組込んでこれを支出しようとしており、これによって福山市に損害が生ずるおそれがある。

四  また、本件区画整理区域内には広島県の管理する県道三、三五七平方メートルがあるところ、福山市長は、右事業の施工に際し右道路の拡幅整備をなしたのに、該工事費を右道路管理者である広島県に請求しない。

五  原告らは、いずれも福山市内に居住するものであるところ、昭和四七年八月一日に福山市監査委員に対し、福山市長が本件区画整理事業の昭和四七年度以降の事業費利子及び休耕地補償金の負担をし、また前記県道三、三五七平方メートルの拡幅整備に関し右に要した費用を本件区画整理事業に負担させ広島県に請求しないことはそれぞれ違法な債務負担に該当するので、これを防止、是正するための措置を講ずるよう請求したところ、同監査委員は、昭和四七年八月一七日にその理由若しくは必要がないとしてその旨原告らに通知した。

六  よって原告らは、地方自治法二四二条の二に基づき、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

(請求原因に対する認否)

第一項は、認める。但し、本件土地区画整理の目的は、坪生町区域の街路及び水路、公園等の公共施設を整備して健全な土地利用増進を図ることにある。

第二項中、福山市が審議会(但し、正式の審議会ではなく協議会であった。)に対し、本件区画整理区域内を山陽自動車道が通過する予定であるから、右通過予定地を保留地として確保するため事業計画の変更を審議して欲しい旨提案したことは認めるが、その余の事実は争う。

第三項中、原告主張のとおり利息及び休耕地補償金支払のための金額を予算に組込んでいることは認めるが、その余の事実は争う。

第四、五項は、認める。

(被告の主張)

一  本件区画整理事業は、完成目標年度を昭和四六年度末としたにすぎず、福山市は、その後右事業施行期間を昭和四四年一二月一日から昭和五六年三月三一日までとする施行計画変更の認可を受けて事業を継続している。

また、福山市は、本件区画整理と山陽自動車道との調和を図って合理的な区画整理を行うために、地元の協力を求めて地元と協議を重ねているうちに現在に至ったもので、職務を懈怠しているわけではなく、むしろ誠実に事を処理せんとして時日が経過しているものである。

したがって、福山市が現在事業費利子及び休耕地補償の債務を負担していることは、全く適法である。

二  本件区画整理は、街路及び水路、公園等の公共施設を整備して健全な土地利用増進を図ることを目的とし、土地区画整理法一一九条の二に規定する重要な公共施設の用に供する土地の造成を主たる目的とするものではない。本件県道拡幅整備工事は、本件区画整理事業のうちの公共施設事業として、事業計画に基づく幹線街路新設工事の一部として行われたものであるから、福山市が右に要した費用を支出するのは当然であって、広島県に対し公共施設管理者負担金を求め得るものではない。

(被告の主張に対する原告の反論)

一  土地区画整理法にいう公共施設とは、宅地の機能を増大又は補助する種類の公共施設、例えば街路、公園、学校等の施設であり、高速道路と区画整理とは本来無関係であり、むしろ相容れない関係にある。

また、区画整理事業も一種の公用負担事業であるから、その実施に当っては住民の負担を可能な限り軽くする必要があり、そのために土地区画整理法は、事業途中において仮換地を指定し、保留地を処分することによって区画整理対象地の利用制限、経済的負担を可能な限り軽減するように配慮しているのである。福山市としても、可能な限り住民の負担を軽くするように配慮すべく、事業計画期間内であれば何をしてもよいというわけではない。

二  土地区画整理法一一九条の二第一項にいう重要な公共施設で政令で定めるもののうちに道路法の道路は含まれており、また道路法四九条の管理者費用負担の原則につき、土地区画整理法には道路法の特別法としての明文はない。

第三証拠関係≪省略≫

理由

一  被告は、請求の趣旨第一、二項記載の請求は不適法である旨主張するので検討する。

地方自治法二四二条の二に規定する住民訴訟は、地方公共団体の執行機関又は職員に違法な財務会計上の行為がある場合にこれを是正する手段として認められたものであるところ、原告らの右各請求は、本件区画整理工事の遅延そのものが違法であるとしてこれを訴訟の対象としているわけではなく、右遅延が違法であることにより右遅延によって支払を要することとなる原告ら主張の各費用を福山市が負担し支出することは違法であるとして、その支払の差止めを求めているのであるから、右は財務会計上の行為を訴訟の対象としているに他ならず、被告の主張は失当である。

二  つぎに、休耕地補償金及び利息の各支払の差止めを求める点について検討する。

福山市が本件区画整理事業の施行者として、その施行に関し条例五八号を制定し、昭和四四年一二月一日に広島県知事から本件区画整理事業の認可を受け右事業の施行に着手したこと、昭和四九年度以降も福山市の予算に原告ら主張のとおり休耕地補償金及び利息の各支払のための金額が組込まれていること、原告らは、いずれも福山市に居住し、昭和四七年八月一日に福山市監査委員に対し、原告ら主張のとおり監査請求をしたところ、同監査委員は、昭和四七年八月一七日にその理由若しくは必要がないとしてその旨原告らに通知したことは当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫を総合すれば次の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

1  当時の福山市長徳永豊と坪生地区振興協議会会長桑田卓人は、中国電力株式会社が坪生町字西池から同町字黒坂までの間に福山連絡線を架設するに当って昭和四〇年七月八日付覚書を交し、福山市が右送電線の架設によって坪生町の開発に支障のないようにするため、坪生町地域に、土地区画整理を行うことを約したこと。

2  福山市は、右覚書に基づき、昭和四四年九月に条例五八号を制定し、本件区画整理事業計画を決定し、次いで同年一二月一日付で広島県知事から該事業の認可を受け、右送電線架設工事の完了後、昭和四五年四月頃から本件区画整理事業の施行に着手したこと。

3  本件区画整理事業は、当初の施行期間を昭和四四年一二月一日から昭和四九年三月三一日までとし、その設計方針は、本件区画整理区域が住居地域として指定されているので、全域を住居地として利用できるようにすることとし、将来の人口を七、五〇〇人と見込んだこと、また、本件区画整理施行前の公共施設は、県道福山坪生線(幅員五メートル)が東西に走り、県道大門坪生線(幅員五メートル)が本件区画整理区域から南接住宅団地を縦断して国道二号線に連結している他は、農道ないし畦道がある程度で道路としての効果を果たすものはなく、水路についても見るべきものはないが、本件区画整理の施行により、右各県道が拡幅整備されてこれが幹線となり、四〇ないし五〇メートル間隔に幅員六ないし一二メートルの区画街路が設けられる結果、道路面積の本件区画整理区域面積に占める割合は三、〇四パーセントから二一、七五パーセントに増加し、また、排水路は、幅員三、五メートルのものを幹線として一ないし二メートル幅のものが各地区に通ずるように布設され、さらに本件区画整理区域内に居住する者の利用に供するため、五ヶ所の公園が造られること、その結果、本件区画整理事業の減歩率は、いわゆる保留地減歩と公共減歩とを合わせて四二パーセントになること。

4  本件区画整理工事は、工事費の騰貴による事業費の増大を避けるため、仮換地の指定をすることなく街路、水路等設定工事に着手し、爾来工事は順調に進み、昭和四五年度中には全体の約八〇パーセント程度まで進行しており、そのまま工事が続行されれば昭和四六年度中にも公共施設等工事を終え仮換地指定を完了できる状況にあったこと。

5  かねて福山市当局は、建設省中国地方建設局長から、山陽自動車道が本件区画整理区域内を通過する予定であることを聞知し、右通過により本件区画整理区域内に支障を及ぼす事態をできるだけ避けるためには、本件区画整理区域内にあらかじめ右道路通過予定地を確保することが両事業の調和を図ることになると考えていたところ、同局長から敷地予定地の先行取得を依頼する旨の昭和四五年一一月三〇日付の文書を受取ったこと、そこで福山市長は、右依頼に応え、山陽自動車道のための敷地を保留地として確保する方針を固め、昭和四六年一月一九日に本件区画整理審議会を招集し、山陽自動車道の敷地を保留地として確保するための事業計画変更案を附議したこと。

6  審議会委員は、右議案について審議する資料を得るため、同年二月に吹田市に出張し、大阪府道御堂吹田線を視察したが、右視察後、審議会は、山陽自動車道が本件区画整理区域内を通過することに反対する旨の意見をまとめて福山市に対し具申したこと。

7  その後福山市長は、昭和四八年三月頃までに右山陽自動車道の問題の進展をはかるため、約一〇回審議会委員の協議会を開催し、また坪生町住民に対する説明会を建設省の関係者の参加を求めて二、三回開いたが、右自動車道通過の反対の理由となっていた振動、騒音等につき、住民の不安を解消させるに足る具体的解決方法についての説明はなされなかったこと、そのうえ右道路は本件区画整理区域内から乗入れができず、本件区画整理区域内の住民に直接的な利便を与えるものではないこともあって、審議会委員及び坪生町住民の間では山陽自動車道通過に対し反対の空気が強かったこと、そして、坪生町の住民は、山陽自動車道反対期成同盟会を結成し、昭和四六年一一月二〇日に坪生町住民等七三〇名の署名を添えて福山市長に対し、山陽自動車道通過に反対の陳情をし、さらに、本件区画整理区域内の地権者の大半である一二五名の署名を添えて、福山市長に対し、保留地を山陽自動車道敷地に売却することに反対し、路線の変更を求める旨の陳情を行い、また、審議会委員全員は、連署のうえ、昭和四八年一一月一七日に福山市長に対し要望書を提出し、市長が山陽自動車道敷地先行取得に関し所見を明らかにし、解決を促進するため速かに審議会を開催し本案件を附議し採決の結果に従い善処するよう求めたこと。

8  福山市長は、これらの反対、意見等に対して、建設省が計画している山陽自動車道建設の必要性はかねて要望してきたところであり、同省が通過予定地の先行取得を要請し路線の変更はできないとしている以上、これに応え、高速道建設と本件区画整理との各公共の利益の調和を図りたいとして本件区画整理区域内の地権者の協力方をくりかえし要請し、審議会等が山陽自動車道の本件区画整理区域内通過に反対するかぎり、本件区画整理の残工事を進行し仮換地指定等の手続に移ることは相当でないとし、昭和四六年六月頃から本件事業の施行をほとんど中断していること。

9  建設省は、昭和四九年一月一二日に山陽自動車道の路線を正式に決定して発表したが、右によれば、路線の位置に変更はないが、幅員が当初の計画では四四メートルであったものが八八メートルとなり、本件区画整理区域内においては約六ヘクタールの土地が道路敷地として必要になるところ、本件区画整理事業費を保留地の処分金で賄う場合、右処分を時価で行えば三ヘクタール足らずで十分であり、保留地のみで山陽自動車道の敷地を確保することはできず、さらに換地の買収が必要となること。

10  福山市は、本件区画整理事業計画施行期間変更の認可をうけ、昭和四九年二月一四日にその旨の公告をしたが、これによって本件区画整理事業の施行期限は昭和五六年三月三一日までに延長されたが、右施行期間の延長によって資金に不足を来たすことはなく、保留地の処分金によって本件区画整理事業費は十分賄いうること。

右認定事実によって考えるに、本件区画整理区域内を山陽自動車道が通過する予定であるとしてその道路敷地につき先行取得を依頼された福山市としては、本件区画整理完了後に本件区画整理区域内を右自動車道が通過することになれば、区画整理によって一旦整備された土地が右自動車道のための買収又は収用によって再び不整形な土地になる等土地区画整理の効用を減殺する事態が生ずるのを防ぐため、あらかじめ、山陽自動車道のための敷地を保留地によって確保しようとして本件区画整理工事を一時中断ないし延期し、山陽自動車道通過に反対する審議会委員、関係住民等の説得に当ったことは一応妥当な措置であったと言えなくはない。しかし、高速道路そのものの果たす社会的、経済的役割を否定することはできないものの、これが沿道住民の生活環境等へもたらす悪影響もまた否定しえない現実であり、福山市、建設省等の担当者による幾度かの説明会等においても、これに有効に対処しうる方策について納得できる説明が具体的に為されたとは言えず、本件区画整理区域内ないし坪生町の住民がこの点について不安を抱き本件程度の規模の土地区画整理と高速自動車道建設とはもともと相容れ難いものであるとして、山陽自動車道の通過に反対の態度をとったことはまことに無理からぬものがある。そして幾度か説明会等を開催し相当日時を経過しているにもかかわらず、本件区画整理地権者の大半を納得させることはできず、また、審議会委員も山陽自動車道通過に反対の態度をとり、当初の事業計画に従い事業を進行することを望んでいる以上、格別の事情の変更のないかぎり、山陽自動車道敷地に保留地を充てるための事業計画の変更の賛成をえることは著しく困難であることが明らかであるといわざるをえない。また、建設省が昭和四九年一月に発表した計画では、山陽自動車道敷地を保留地によってのみ賄うことは不可能となったのであるから、福山市長としては、かかる現状を放置することなく、さらに騒音、公害等を防除しうる特段の具体的手段を提示して地権者、審議会委員等の賛成を得られるような努力をし、それでも賛成がえられないときは、定められた事業計画に従い残工事を施行し、仮換地指定その他一連の作業を進行し、本件区画整理を完了すべきである。しかるに、個別の説得をすることはともかく、このような努力をすることなく、いわば福山市にとって事態が好転するまで漫然工事を中断し、本件区画整理の完了を遅延させている現状は、まことに当を得ないものと言わなければならない。

しかしながら、福山市は、昭和四九年二月一四日に事業計画を適法に変更し、本件区画整理事業施行期限は昭和五六年三月三一日までとなり、また事業の中断ないし遅延が土地区画整理法その他の具体的法規に違反しているということもなく、さらに福山市長が本件区画整理事業施行者としての権限を濫用しているとまでも言い難いから、右はあくまで不当たるに止まり、違法とは言うことができない。そして、本件区画整理の事業費は、終局的には、保留地処分金によって賄われるものであるうえ、事業の中断によって本件区画整理の完了が遅延し、中断がなければ支出を要しない休耕地補償金及び利息が支払われ、又は支払われんとしているとしても、その期間、額その他の事情にてらし、これによって福山市に対し回復困難な損害が生ずるということはできない。

そうすると、休耕地補償金及び利息の各支払の差止めを求める原告らの請求は、理由がない。

三  つぎに、被告が、広島県道の拡幅整備費用を広島県から徴収しないことが違法であることの確認を求める点について検討する。

本件区画整理区域内に広島県の管理する県道三、三五七平方メートルがあり、被告は、本件区画整理事業の一部として右道路の拡幅整備をなしたが、該工事費を右道路管理者である広島県に請求していないことは当事者間に争いがない。

ところで、土地区画整理事業に要する費用は、原則として、施行者が負担すべきものである(土地区画整理法一一八条一項)ところ、都市計画において定められた幹線街路その他の重要な公共施設で政令で定めるものの用に供する土地の造成を主たる目的とする土地区画整理事業を施行する場合においては、施行者は、その公共施設管理者に対し、その土地区画整理事業に要する費用の全部又は一部の負担を請求しうる(同法一一九条の二)

他方、道路の管理に関する費用は、その道路の道路管理者が負担することを原則とする(道路法四九条)が、道路法二四条によって道路管理者以外の者の行なう道路に関する工事又は道路の維持に要する費用は、同条の規定により道路管理者の承認を受けた者又は道路の維持を行なう者が負担することとされている(同法五七条)。

したがって、土地区画整理事業において、道路法にいう道路に関する工事を為した場合、右工事は、道路法二四条に基づいて行われるものであるから、当該土地区画整理事業が土地区画整理法一一九条の二の適用を受けないかぎり、右道路工事に要した費用は、当該土地区画整理事業の施行者において負担しなければならない。

そして、土地区画整理法が一一九条の二を設けて公共施設管理者に対し負担金を請求できるとした趣旨は、土地区画整理区域内に公共施設を新設し、あるいはこれを整備改善した場合において、右新設、改善等にかかる公共施設が、当該土地区画整理区域内の住民によって主として利用され、右区域内の土地の効用を増進させるものであれば、これに要した費用を当該土地区画整理事業の施行者に負担させても合理性を持ちうるが、当該新設等にかかる公共施設が当該区画整理区域内の住民によって利用されることが少なく、むしろ主として他の地域の居住者によって利用されるものである場合、これに要した費用を当該土地区画整理事業施行者に負担させることは過酷にすぎるため、本来新設、管理等の費用を負担すべき立場にある当該公共施設の管理者に負担を求めることができるとしたものである。

本件県道は、道路法上の道路であって、土地区画整理法一一九条の二第一項にいう重要な公共施設で政令で定めるものに該当する(土地区画整理法施行令六四条の二)ところ、前示認定事実によれば、本件区画整理区域が、将来の人口七、五〇〇人を見込む住居地域として発展するためには、本件県道を拡幅整備することは不可欠なものと考えられる。そうすると、土地区画整理法一一九条の二の設けられた前示趣旨に鑑み、福山市が同条によっていわゆる公共施設管理者負担金を請求しうるものではなく、道路法五七条によってその工事費を施行者自ら負担すべきものであって、原告らの請求は理由がない。

四  以上の次第で、原告らの本件請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 五十部一夫 裁判官 若林昌子 上原茂行)

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